Q1. 平成16年度税制改正のなかで、企業に影響のありそうな改正事項から説明して下さい。
A1. それではまず、企業経営に関連のある改正から説明しましょう。
(1)欠損金の繰越控除期間を7年に延長
青色申告を提出した事業年度の欠損金の繰越控除期間、青色申告を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除期間及び連結申告法人の連結欠損金の繰越控除期間が次のように延長されます。
適用は、平成13年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金額からとなります。
(2)帳簿書類の保存期間を7年に延長
欠損金の繰越控除期間の延長にあわせて、法人税に係る帳簿書類の保存期間のうち従前
5年とされている帳簿書類が次のように延長されます。
適用は、平成13年4月1日以降に開始した事業年度に係る帳簿書類からです。
(3)法人税に係る更正期間制限の延長
欠損金額に係る更正の期間制限が次のように延長されます。
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従前 |
改正後 |
欠損金額に係る更正の期間制限 |
5年 |
7年 |
適用は、平成13年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金額からです。
また、脱税以外の場合の過少申告に係る更正の期間制限が次のように延長されます。
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従前 |
改正後 |
脱税以外の場合の過少申告に
係る更正の期間制限 |
3年 |
5年 |
適用は、平成16年4月1日以後に法定申告期限等が到来する法人税からです。
(4)連結納税制度を選択した法人に対する付加税の廃止
連結納税制度を選択した法人に対する2%の付加税(いわゆる連結付加税)は、適用期限の到来(平成16年3月31日までに開始する事業年度)をもって廃止されます。
(5)欠損金の繰り戻し還付の不適用制の延長
欠損金の繰り戻し還付請求制度についてその不適用の期間が2年間延長されます。
ただし、中小企業者の設立後5年間に生じた欠損金額及び中小企業経営革新支援法の承認経営革新計画に従い、経営革新のための事業を行う中小企業者の欠損金額に係る適用除外措置の適用期限が2年間延長されます。
(6)中小企業者等に対する同族会社の特別税率の不適用の延長
中小起業者に対する同族会社の特別税率の不適用の期限が2年間延長されます。
ただし、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法に係る措置にあたっては、
平成17年4月13日までとされています。
(7)特別措置の廃止
特定余暇利用施設の特別償却
農村地域工業等導入地域における工業用機械等の特別償却など
(8)税額控除等の縮減
中小企業投資促進税制
その対象となる器具備品の取得価額の最低額およびリース費用総額の最低額が
次のように引き上げられた上、適用限度が 2年延長 されます。
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従前 |
改正後 |
取得総額の最低額 |
100万円 |
120万円 |
リース総額費用の最低額 |
140万円 |
160万円 |
増加試験研究費等の特別税額控除制度
対象となる試験研究費の範囲から中小企業経営革新支援法の組合等または特定組合等(沖縄振興特別措置法の特定組合等は除く)に対する負担金は除外されます。
(9)特別償却等の縮減等
優良賃貸住宅等の割り増し償却制度
対象となる賃貸住宅か都心共同住宅が控外されるとともに、特定優良賃貸住宅の割合率が次のように引き上げられたうえ、適用期限が2年間延長されます。
<特定優良賃貸住宅の割増率>
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従前 |
改正後 |
耐用年数35年以上のもの |
40% |
28% |
耐用年数35年未満のもの |
30% |
21% |
再商品化設備等の特別償却制度
特定家庭用機器廃棄物再生処理装置等を除外するとともに、食品循環資源再生利用設備について基準取得価額要件(取得原価の75%)を預けた上、その適用期限が2年間延長されます。 など
(10)適用期限の延長等
使途秘金の支出がある場合の課税の特例(支出金額に40%の特別税率)の適用期限が2年間延長されます。 など
(11)土地浄土益重課制度の適用停止の5年延長など
土地嬢渡益(一般・短期)に対する重課税制度について、その適用停止期限が5年間延長されます。また、一般の土地嬢渡益に対する重課税制度の適用除外の措置(優良住宅地等のための嬢渡等に係る適用除外など)の適用期限も5年間延長されます。
以上が法人税関係の主な改正事項です。
Q2. 次に住宅ローン減税や土地減税などについて説明してください。
A2. 住宅.土地税制などで見直し等が行われ、次のような改正があります。
(1)住宅ローン減税の縮減
平成15年12月31日までの措置であった従前からの住宅ローン税控除額について、
平成16年から平成20年までに居住の用に供した場合の控除期間、住宅借入金等の
年末残高および控除率について図のとおり段階的に縮小されることになります。
居住年 |
控除期間 |
住宅ローン等の年末残高 |
適用年・控除率 |
平成16年 |
10年間 |
5000万円以下の部分 |
1年目から10年目まで1% |
平成17年 |
同上 |
4000万円以下の部分 |
1年目から8年目まで1%
9年目及び10年目0.5% |
平成18年 |
同上 |
3000万円以下の部分 |
1年目から7年目まで1%
8年目から10年目まで0.5% |
平成19年 |
同上 |
2500万円以下の部分 |
1年目から6年目まで1%
7年目から10年目まで0.5% |
平成20年 |
同上 |
2000万円以下の部分 |
1年目から6年目まで1%
7年目から10年目まで0.5% |
(2) 特定の居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の繰越控除
特定の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除の適用については、その個人が譲渡資産の譲渡をした年の一定の日においてその譲渡資産取得に係る一定の住宅借入金等の残高があることが必要とされていましたが、この要件が除外された上、その適用期間が 3年延長 されます。
※なお、この特例については、譲渡資産に係る譲渡損失の金額があるときは、その譲渡資産の譲渡による所得以外の所得との通算および翌年以降の繰越控除が認められます。
また、純損失の繰越控除制度および純損失の繰戻し還付制度の純損失の金額には、
その譲渡資産に係る譲渡損失の金額は含めないこととされています。
(3)特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度の創設
居住用財産の譲渡損失のうち、譲渡資産に係る住宅ローンの残高が譲渡価額を超える場合のその差額を限度として、損益通算および繰越控除を認める制度です。
個人が平成16年1月1日から平成18年12月31日までの間に、所有期間5年超の居住用の家屋または土地等(譲渡資産)を譲渡(親族等への譲渡を除く)をした場合(契約締結時の前日において、その譲渡資産に係る一定の住宅ローン残高がある場合に限る)において、その年にその譲渡資産に係る譲渡資産に係る譲渡損失の金額がある時には、一定の要件の下で、その年の翌年以後3年内の各年分(合計所得金額が3,000万円以下である年分に限る)の総所得金額等からの控除が認められます。
Q3. 次に土地税制について説明してください。
A3. 次のような改正があります。
(1)土地、建物等の長期嬢渡所得の課税の特例
長期譲渡所得の課税の特例
土地、建物等を譲渡した場合の軽減税率を廃止し、税率が次のとおり引き下げられます。
従前(特例措置) |
改正後 |
特別控除後の譲渡益
26%(所得税20%、住民税6%) |
特別控除後の譲渡益
20%(所得税15%、住民税5%) |
適用は、平成16年1月1日以降に行う土地、建物等の譲渡からです。
優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
表の措置を講じた上で、その適用期限が5年延長されます。
この場合、収用交換等の5000万円などの特別控除を適用した場合には、この軽減税率は適用できないこととされています。
従前 |
改正後 |
特別控除の譲渡益
4000万円以下の部分
20%(所得税15%、住民税5%) |
譲渡益2000万円以下の部分
14%(所得税10%、住民税4%) |
特別控除後の譲渡益
4000万円超の部分
26%(所得税20%、住民税6%) |
譲渡益2000万円超の部分
20%(所得税15%、住民税5%) |
適用は、平成1月1日以降に行う土地、建物等の譲渡からです。
長期譲渡所得の100万円の特別控除の廃止
この100万円特別控除の廃止は、平成16年分以後の所得税および平成17年度分以後の個人住民税について適用されます。譲渡所得の金額によっては、税率が下がっても負担する所得税が増えそうです。
(2)土地、建物等の短期譲渡所得の課税の特例
短期譲渡所得については、次のとおり引き下げられます。
従前 |
改正後 |
次のいずれか多い方の税額による。
・譲渡益の52%
(所得税40%、住民税12%)
・全総合課税をした場合の上積税額の110% |
次の税額による。
・譲渡益の39%
(所得税30%、住民税9%) |
適用は、平成16年1日1日以後の譲渡からです。
(3) 土地、建物等の譲渡損失について、損益通算及び損失の繰越控除の廃止
土地、建物等に係る譲渡損失については、損益通算(同じ年分の他の所得と相殺)することができなくなり、また、翌年以降に繰越して控除することも認められなくなります。
平成16年分以後の所得税および同17年度分以後の個人住民税について適用されます。
Q3. その他、所得税関係の改正はありますか?
A3. 老年者控除の廃止や青色申告特別控除の引き上げなどがあります。
(1) 老年者控除の廃止など
老年者控除が廃止されるとともに、公的年金等控除のうち年齢65歳以上のものについて上乗せされている措置が廃止されます。そして、老年者特別加算として65歳以上の最低保障額を50万円加算して120万円とされます。
適用は、平成17年分以後の税所得および同年分以後の個人住民税からです。
(2) 確定拠出年金の掛け金の非課税枠の引き上げ
確定拠出年金(日本版401K)の搬出金の非課税枠が次のように引き上げられます。
同時に小額資産の中途引出要件が緩和されます。
なお、自営業者等が加入している個人型年金への拠出限度額については、従前のままです。
<企業型>
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従前 |
改正後 |
他の企業年金がない |
月3.6万円 |
月4.6万円 |
他の企業年金がある場合 |
月1.8万円 |
月2.3万円 |
<個人型>
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従前 |
改正後 |
他の企業年金がない場合 |
月1.5万円 |
月1.8万円 |
(3) 非上場株式等の譲渡所得の特例
上場株式以外の株式等(非上場株式等)を譲渡した場合の譲渡所得に対する税率が
次のとおり引き下げられます。
従前 |
改正後 |
26%
(所得税20%、住民税6%) |
20%
(所得税15%、住民税5%) |
適用は、平成16年度1月1日以後の譲渡からです。
(4)相税により取得した非上場株式の相続税納付のための譲渡の課税の特例
相続等により取得した非上場株式を相続税納付のためにその発行会社に譲渡した場合、
みなし配当課税を行わず譲渡益課税の対象とされます。
つまり、相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年以内に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を行わず譲渡益課税の対象とするというものです。
適用は、平成16年4月1日以後の相続等により取得した非上場株式を同日以後に譲渡する場合からです。
(5)青色申告特別控除の引上げ
不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営む青色申告書を提出する納税者についての青色申告書を提出する納税者についての青色申告特別控除が現行の55万円から65万円に引き上げられます。
一方、簡易な簿記の方法により記録している者に係る経過措置(特別控除額45万円)は廃止されます。
適用は、平成17年分以後の所得税からです。
(6)住宅取得資金の貸付を受けた場合の経済的利益の非課税
給与等又は退職手当等の支払いを受ける者(役員その他特殊関係者を除く)が使用人として受ける経済的利益(住宅取得資金の低利または無利息融資あるいは利子補給金など)についての非課税制度の適用期限が2年間延長されます。
以上が所得税関係の主な改正内容です。
なお、個人事業者等についての減価償却は法人税の取扱いと同様になります。
Q3. 相続税・贈与税などについての改正はありますか?
A3. 次のような改正があります。
(1)特定事業用資産の相続税の課税価格の計算の特例
特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例について、対象となる特定同族会社株式等の価額の上限が現行の3億円から10億円に引き上げられます。
適用は、平成16年1月1日以後に相続もしくは遺贈または贈与により取得する同族会社株式等に係る相続税・贈与税からです。
以上が国税の主な改正事項です。
Q3. 続いて地方税関係の改正はありますか?
A3. 個人住民税の均等割や固定資産税などについて見直しされています。
(1)個人住民税の平均率の見直し
1 平成16年度分以後の市町村民税の均等割りについて、人口階段別の税率区分を廃止し、その税率を年額で3,000円に統一されます。
従前 |
改正後 |
人口50万以上の市 |
3,000円 |
3,000円 |
人口五万人以上50万未満の市 |
2,500円 |
その他の市および町村 |
2,000円 |
2 個人住民均等割の納税義務を負う夫と設計同一の妻で、夫と同じ市町村内に住所を有するものに対する非課税措置が平成17年度から段階的に廃止され、所属金額が一定額(例:パート収入100万円)を超えるものに均等割りを課税(同17年度分は2分1の額で課税、同18年度から全額で課税)されます。
(2)個人住民税の非課税限度額の引き下げ
平成16年度分以後の個人住民税について、所得割引および均等割りの非課税限度額が
次のとおり引き下げられます。なお次の@、Aの加算額は控除対象配偶者および扶養親族がいる場合のみ加算されます。
@所得割の非課税限度額
従前 |
所得金額≦35万円×家族数+加算額36万円 |
改正後 |
所得金額≦35万円×家族数+加算額35万円 |
A 均等割りの非課税限度額
従前 |
所得金額≦35万円×家族数+加算額24万円 |
改正後 |
所得金額≦35万円×家族数+加算額22万円 |
(3)商業地等の固定資産税の見直し
商業地等に係る固定資産税について、負担水準の上限が法定された70%の場合に算定される税額から、地方公共団体の条例の定めるところにより、負担水準60%から70%の範囲内で条例で定める負担水準により算定される税額まで、一律に減額することができるようになります。
これにより、実質的に60%から70%の範囲内で条例で定める負担水準まで上限を下げた場合と同様の効果が生じます。都市計画税にも同じ仕組みが創設されます。
*「商業地等」とは、オフィスビル用地、工業用地などの住宅用地以外の土地です。
(4)自動車税のグリーン化
自動車税について、排出ガス性能および燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車は税率を軽減し、新車新規登録から一定年数を経過した環境負荷の大きい自動車は税率を重くする措置(自動車税のグリーン化)が講じられます。
<自動車税に係るグリーン化税制>
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対象車種 |
税率 |
環境負荷の小さい自動車 |
・平成17年度自動車排出ガス基準値より75%以上排出ガス性能の良い自動車で燃費基準値より5%以上燃費性能の良い自動車
・電気自動車
・メタノール自動車
・天然ガス自動車 |
50%軽減※1 |
・平成17年自動車排出ガス基準値より75%以上排出ガス性能の良い自動車で燃料基準を満たすもの |
25%軽減※1 |
・平成17年度自動車排出ガス基準値より50%以上排出ガス性能の良い自動車で燃費基準値より5%以上燃費性能の良い自動車 |
環境負荷の大きい自動車 |
・ディーゼル車で新車新規登録から11年を経過したもの |
10%重課※2 |
・ガソリン車またはLPG車で新車新規登録から13年を経過したもの |
※1…平成16年度および平成17年度に新車新規登録された自動車に対して、登録の翌年度に適用される。
※2…平成16年度および平成17年度に要件に該当する自動車に対して、その翌年度から適用される。
以上が平成16年度税制改正の主な事項です。
※平成16年度税制改正は、平成16年1月16日に閣議決定された要網等をもとに作成
しています。
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